累乗根の [1/1] パデ近似

はじめに

x=x0 の周りにおける 関数 f(x)[m/n] パデ近似とは, 有理関数 fm/n(x)=P(x)/Q(x) (ただし P(x), Q(x) はそれぞれ m, n 次多項式)であって, x=x0 の周りにおけるテイラー展開の係数が 元の関数 f(x)m+n 次まで一致するもののことである[BG, p. 1].

累乗根の [1/1] パデ近似は覚えやすい形をしており,計算精度も高い. この記事では, x=1 の周りにおける n 乗根関数の [1/1] パデ近似の式を導く. また,応用例として 47, 423 の近似値を計算する*1

導出

[1/1] パデ近似なので, 分母・分子が共に1次の有理関数であって, そのテイラー展開が累乗根のテイラー展開と2次の項まで一致するものを求めたい. はじめに,関数 f(x)=xnx=1 の周りで展開する. x=1+ε とおくと, xn=1+1nε-n-12n2ε2+ である. 次に, f1/1(x)=(ax+b)/(cx+d)x=1 の周りで展開する. 先ほどと同様に x=1+ε とおくと,次のようになる. ax+bcx+d=a+bc+d+ad-bc(c+d)2ε-c(ad-bc)(c+d)3ε2+

f(x)f1/1(x) のテイラー展開が2次の係数まで一致すると仮定すると次の式を得る. a+bc+d=1,ad-bc(c+d)2=1n,c(ad-bc)(c+d)3=n-12n2 この連立方程式を解く. 未知変数は a,b,c,d の4つであるが,条件が3つなので自由度が1つ余る. ただし,この自由度は分母と分子を定数倍するだけなので,関数 f1/1(x) は結局1つに定まる.

まず, c/(c+d)=(n-1)/2n より c=n-1, d=n+1 としてよい. これを代入すると a+b=2n,(n+1)a-(n-1)b=4n を得る. ここから a=n+1, b=n-1 が分かる. 以上より f(x)f1/1(x)=(n+1)x+(n-1)(n-1)x+(n+1) となる. xx/t で置き換えると,最終的に次の式を得る. xtn(n+1)x+(n-1)t(n-1)x+(n+1)t たとえば, n=3 のときは次のようになる. xt34x+2t2x+4t=2x+tx+2t

係数の順番がややこしいが, x=0 を代入したときに誤差が小さくなる方と覚えておくと忘れにくい.

計算例

例1. 47 の平方根を考える. t=49 とおくと次の近似値を得る. 47=7×47497×3×47+4947+3×49=66597=6.855670⋯ (66597)2=47.00021⋯ 実際には 47=6.85565460⋯ (相対誤差 2.3 ppm)である.

例2. 42の立方根を考える. t=27 とおくと 次の近似値を得る. 423=3×422733×2×42+2742+2×27=11132=3.46875 (11132)3=41.73678⋯ 実際には 423=3.4760266⋯ (相対誤差 0.21 %)である. 精度を上げるため, 111/32 に近い簡単な分数として適当に 7/2 を取ってもう一度計算すると 423=72×42×2373372×2×42×8+34342×8+2×343=16×42+3432×(48+98)=1015292=3.476027397⋯ (1015292)3=42.00002727⋯ を得る(相対誤差 0.22 ppm).

平方根の近似値の計算精度のグラフ
1200 の近似値の相対誤差のグラフ.
近似の方法による計算精度の違いを表すグラフ
k の取り方による計算精度の違い.

追記1:ハレイの方法について

(2024-01-09 作成)

この記事について愛知県の林邦英さんからお手紙 (2023.11.29) が届いた. 大変ありがたいことです. 林さんについて調べてみると,連分数論や近似論について精力的に研究なさっているようで, 沢山の研究資料がオンラインで公開されている *2. その中でも資料 [H] によると, 平方根の近似式 x3x+1x+3 にはハレイの方法という名前がついているらしい. これは知らなかった. 博論の提出が終わったらハレイの方法についてもう少し調べたい…….

林さんからのお手紙には,常用対数の計算手法に関する結果もまとめられていた. しかしまだきちんと読めていない……大変申し訳ないことです. 内容をちゃんと理解できたら別記事とお返事のお手紙を出したい.

更新履歴

  • 2022-09-14: 公開
  • 2023-04-02: Document ID を追加
  • 2023-12-03: 名前を間違えていたので訂正
  • 2024-01-09: 追記1(林さんからのコメントを受けて)

Permanent ID of this document: 4a465cdb12bc8608219aff4fd20e7b4a

脚注

*1: この記事はますえく@数学垢さんの9月12日のツイートから刺激を受けて書いた.

参考文献

[BG] George A. Baker, Jr. and Peter Graves-Morris (2010). Padé approximants (2nd ed.). Cambridge University Press. ISBN: 978-0-521-13509-2.
[H] 林邦英 (2007年7月17日). 「ハレイの方法(3次収束)の始まりについての予想」. TOZSUN.COM, https://www.tozsun.com/whr-mathHP/report/hayasi/hayasi20070717.pdf, (2023年12月5日閲覧).