ビオ・サバールの法則とローレンツ変換

先週の輪講でビオ・サバールの法則について議論したのでここにメモしておく.

真横を通過する電荷がつくる磁界

静止した観測者 K から見て,時刻 t=0 に電荷 q が位置 (-R,0,0) を小さい速度 v=(0,0,v) で通過する状況を考える. この電荷が原点につくる磁界を計算するため,まず電荷と同じ速度で運動する慣性系 K' で考える. 2つの慣性系は t=t'=0 で原点を共有するとする. β=v/c,γ=1/1-β2 とする.

位置 (-R,0,0) にある静止した電荷 q が原点につくる電磁界は E'=(q4πε0R2,0,0),B'=(0,0,0). これをローレンツ変換すれば Bx=γ(Bx'+-vc2Ey')=0 By=γ(By'--vc2Ex')=γvc2q4πε0R2μ0vq4πR2 Bz=Bz'=0 ここで γ1 を使った. 上式より,静止系では磁界 H=1μ0B(0,qv4πR2,0) を観測することになる. これは確かに電流線素が作る磁界の式と一致している.

一般の場合

今度は,時刻 t=0 において原点を速度 v で通過する電荷 q が位置 r につくる磁界を計算したい. 再び電荷と同じ速度で移動する慣性系 K' で考える.

K 系と K' 系の電磁界の間には B=γ(B'--v×E'c2)+(1-γ)B' という関係がある[AWH, pp. 867-868]. ただし B'B'-v に平行な成分である. K' 系では B'=o. また, r の速度に垂直・平行な成分に関する分解を r=r+r とすると,電界は E'=qr'4πε0r'3=q(r+γr)4πε0(r2+γ2r2)3/2q4πε0r3[r+β2(3r22r2r+12r)] と表される. さっきとは違って, β2 に比例する項まで計算してみた. B',E' を上の式に代入して Bγvc2×q4πε0r3[r+β23r22r2r]μ0qv×r4πr3[1+β2(12+3r22r2)] よって, qv=Ids とすれば*1 H=1μ0BIds×r4πr3 となる. これを電流の経路に沿って積分すればビオ・サバールの法則が出てくる.

感想

ローレンツ変換の式からビオ・サバールの法則が導出されることはどこかで耳にしたことがあったが, 自分で計算したことはなかった. 実際に計算してみると r/r3 の項がクーロンの法則に由来していることがよく分かった.

更新履歴

  • 2021-07-13: 公開
  • 2021-07-13: 静止系を K に変更, 2次の項までの計算を追加, 記法の変更, セクションの設定, その他細かい変更
  • 2021-07-24: 脚注ではなく参考文献欄を使うようにした
  • 2023-04-02: Document ID を追加

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脚注

*1: 電流素片 Ids の次元は「電流×長さ」である.

参考文献

[AWH] Arfken, G. B., Weber, H. J., Harris, F. E. (2013). Mathematical Methods for Physicists: A Comprehensive Guide. (7th edition). Academic Press.